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想い出さがし<完>

54 尊敬する兄

6

祥「やっと初めての挫折か? 俺なんか7歳の頃からずっと味わっていたぜ?」

その言葉に総二郎はエッ!と顔をあげる
祥一郎は、近くのソファーに座ると、三人も並んでソファーに腰を下ろした

祥一郎は前を向いたまま淡々と話す

祥「俺の初めての挫折は、総二郎が自らお茶を点てた時だ。
  そのお茶を飲んだ時、俺は一生こいつに叶わないと悟った。」
総「兄貴、、、」

祥一郎は自嘲気味に笑いを洩らす
そして再びまっすぐ前を向くが、その視線ははるか遠くを見ているようだった

祥「産まれた時から次期家元として厳しく育てられた。 お前と同じように、いやそれ以上だな。
  だが総二郎に稽古をつけた時、家元は悟ったんだろうな。 総二郎の方が素質があると、、。」
総「そんな事は、、。」

総二郎は急いで否定しようとしたが、何故か言えなくなった
それは祥一郎の瞳が寂しそうで、憐れむな!と訴えて見えたからだ

祥「でも稽古をすればいつかは、、という気持ちで頑張っていたんだ。
  でもな、俺が頑張って点てたお茶を、お前は簡単に抜いて行くんだ。 しかも笑顔で、、。
  これぐらいなんでも無いって感じでさ。 そしてとうとう家元が切り出した。
  お前は別の道を選べってな。」
総「えっ? 家元が?」

総二郎は、突然兄が医大を受け家を出たと思っていた
それは、茶道に嫌気がさしたからと思っていた
だが家元の方から告げていたとは初耳だ

祥「もう、、見るに忍びなかったのかもしれない。
  何時しか茶を楽しむ事も忘れ、必死の形相で弟に勝つ為だけに点てていたからな。
  それに家元は、才能のある奴に継がせたいと真剣に考えていたんだろうな。
  もちろんその時は、家元に喰ってかかったけど、同時にやっと肩の荷が降ろせると安堵した。
  今は、こっちの道が合っていると思っている。
  でもな、家元は総二郎に二者択一を告げた。
  俺の時は、他の道を選べ!だぞ? この違いが分かるか?」

総「茶道に精進してほしいと言う、、、希望?」
祥「希望と言うより願いだろうな。
  お前が次期家元と大々的に支部の者や後援会に伝えたのも、嬉しかったからなんじゃないか?
  これで西門は安泰だし、安心して家元の座を譲れるってさ。」

家元がそんな事を思っていたとは信じられないが、兄貴がそう言うならそうなのかも知れない、、と総二郎は思う

祥「それに野口さんも、敢えて厳しく言ったんじゃないか? あの人、本当にお茶が好きな人だろ?
  口酸っぱく小言を言うけど、的を得た指摘だっただろ?」
総「あぁ。 確かにな。 それに今回は、本当に不味いお茶を出したんだ。
  いつもの俺だったら、絶対にやらない失態さ。」

祥「嫉妬? 失恋? まあ初めての経験で、頭に血が上ったから失態したんだろ?」

ズバリと声に出して告げる祥一郎に、総二郎は立つ瀬がない

祥「お前、、昔っからモテていたし、振られた経験も無いだろうから、かなりショックだったんだろ?」

これが赤の他人なら許しがたい発言だが、尊敬できる兄だから許せるし素直になれる

総「まあな。 しかもその相手が類だぜ? 負けるはずがねぇだろ?」

その発言に祥一郎は声を出して笑う

祥「自信過剰だな。 だが総二郎の言う事もよく判る。
  昔っから類はお前らの後をちょこちょこついて歩いていたし、進んで行動する事も無かった。
  気付けばその辺で寝ているしさ。」
総「だろ?」

祥「でも久し振りにあった類は、凄く良い顔をしていたな。
  男らしいと言うか、グイグイ引っ張るんじゃなく、しっかり握って歩調を合わせて歩くタイプって感じだ。
  だから彼女の事は任せておいても大丈夫だろ?」
総「でも、、俺が牧野の大切な帽子を、、。」

祥「その辺も類が何とかするだろ? 暫く二人っきりにして欲しいと言っていたからさ。」
総「そっか。」

祥「とにかくお前は真摯に謝るしかない。 許して貰うまで何度もさ。」
総「それで許して貰えるか?」

自信なさげに呟く総二郎
祥一郎はその総二郎の肩をポンポンと叩き励ます

祥「お前が初めて本気になった女だろ? 直ぐには無理でも、何時かは許してくれる広い心を持っているだろ?」
総「そうかな?」

祥「あぁ。 多分な。」

多分と言う言葉で気持ちを浮上させようとする兄の存在が有り難く感じる

後は自分の行動次第
許してくれるまでトコトン頭を下げろ
今までのプライドをかなぐり捨て取り組めよ
との励ましだから

総二郎は何度も黙って頷く

祥「それと今までお前を苦しめて悪かったな。」
総「何が?」

祥「俺が何も言わず家を出た事で、急にお前の肩に重圧を掛けてさ。
  あれ、俺のちょっとした意地悪だ。 お前が羨ましくもあり、腹が立ったし、嫉妬もした。
  このまま俺が家を出たら、お前はどうなるだろう? 
  次期家元と言う重い肩書を背負わされても、今まで通り上手い茶を点てるんだろうか?
  それとも重圧に押しつぶされ、俺の苦しみをやっと理解し悩むだろうか?
  そのどちらに転ぶのか見てみたい、、、と思ってさ。 敢えてお前と光三郎には言わなかった。」

総「半端無い重圧だった。 それが突然のしかかり、どうして良いか判らなくてさ。」
祥「それで夜遊びに走ったんだろ?
  それによりお前の茶が濁り始め、その憂さを晴らすためにまた夜遊び。
  悪循環に陥ったらしいな。 まさかここまで苦しむとは思わなくて、何時か謝ろうと思っていた。
  悪かったな。」

総「いや、別に兄さんが謝る事は無い。 フラストレーションの発散の仕方を間違えたのは俺自身だしさ。」
祥「なら今後のお前の進むべき道は判っているよな?」
総「あぁ。」

祥「野口さんが彼女のお茶を褒めたのは、もしかして以前の総二郎のお茶に似ていたのかもな?
  久しぶりにその味を飲む事が出来、懐かしくなったんじゃないか?」

お茶が楽しい、好きと言う気持ちを、いつの間にか失くしていた俺
だが牧野の茶には、それが入っていたから野口さんが褒めたのか

いつの間にか俺は、茶人として大切な事を忘れていた
そしてそれを気付かせてくれた兄貴は、やはり俺にとって尊敬する兄であり茶人だ

総「兄さん。 ありがとう。」
祥「最後に飲んだお前の茶は、本当に美味しかった。」
総「何時でも飲みに来なよ。 最高の茶を点てるからさ。」

その言葉に迷いは見られない
祥一郎は、ホッと胸を撫で下ろす

祥「あぁ。 楽しみにしている。」



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6 Comments

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2019-11-07 09:28

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2019-11-07 09:29

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2019-11-07 09:42

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りおりお
Re: り〜様

りおりお  

2019-11-07 10:09

兄から告げられた真実!
それは総ちゃんにとって初めて知る事実だった!

兄は昔から苦悩していた
それは、自分の存在
もう迷うことなく茶道に集中できますね
兄に託された西門流を衰退させてはいけませんから

そして…つくしちゃんは類くんに任せていれば大丈夫
もちろん…謝罪は必須ですけどね

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りおりお
Re: ゆきり〜様

りおりお  

2019-11-07 10:12

兄の思い
それは、総ちゃんが、絶するほどの茶道に対しての苦悩
何も悩むことなく茶道をしていた自分には、分かることの無い苦悩だったでしょうね
天才と凡人と言われた感じですからね

兄のアドバイスにも素直に耳を傾け、これからの茶道に対する姿勢が変わったかな?

頑張るしかない!
総ちゃんが頑張る姿が、何よりの謝罪です!

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りおりお
Re: ビオ〜様

りおりお  

2019-11-07 10:16

そうですよね
総ちゃん自身が類くんを下に見ていた
だから、つくしちゃんと付き合うことが衝撃だったのでしょうね

兄からの告白に、兄の長年の苦悩がわかりました
誰もが苦しんで茶道に向き合っている
でも…今までの自分は、茶道に奢りを持っていた
天才肌でしたからね

さて…心を入れ替えた総ちゃん
後は謝罪あるのみですよね!

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