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さくらいろ

3 フランス語

2020/04/17
勝負<完> 4



「あっ、いた!」

つくしは類の姿を見つけると、そっと近づき定位置へ座る
そこは高等部の非常階段
時間があれば今も通っている大切な場所

そっと類を窺い見れば、「す~す~」と言う寝息がかすかに聞こえる
長いまつ毛にスッと通った鼻筋
薄茶色の髪は天使の輪っかがキラキラと輝いている

整った顔立ちは今更だが、肌もきめ細かでそばかす一つない
同じ人間だし、一応類は男性なのにずるいよ、、とつくしは溜息を一つ吐く

マジマジと見つめていると、類が微かに動いた
つくしは、パっと視線を逸らせると、カバンからゴソゴソとフランス語の教科書を取り出した

「ん? あっ、牧野。 おはよ。」

類は舌っ足らずな声色で呟きながら笑顔を見せる
その表情に、つくしはポッと頬を染める

「///おはよ///」
「もう7月なのに、今年は涼しいな。」

「うん。 でも8月になると一気に暑くなるらしいよ。」
「へぇ、、でもその頃は夏休みだから、、」

夏休みだからこうして非常階段に来る事も無くなる
暑くても関係ない、、と、類の言いたいことが分かる

「それで今日はどこ?」

類の視線はつくしの手元だ

「あっ、ここなんだけどね。」

つくしは急いで類に教科書を見せる
そして指さしながら、、

「ここの訳がイマイチ分からなくて。 単語を検索してつなげてみても、ん?って感じ。 それにね、これをスラスラ読めるようになりなさいって言うんだけどね、教授の発音が悪いのか、私の頭がついていかないのか上手く発音できなくてね。」

つくしは外国語学部だ
英語は必須だが、もう一つの外国語は選べる
そこでつくしはフランス語を選択した
ところがこれがかなり難しい

アルファベットのようだが、文字の上に『’』『‘』など点の向きが違うものがある
もちろん発音も違う

例えば、、
A a  ア  [a] B b  ベ  [be] C c  セ  [se]
D d  デ  [de] E e  ウ  [ə] F f  エフ  [ɛf]
G g  ジェ  [ʒe] H h  アシュ  [aʃ] I i  イ  [i]
といった具合に、アルファベットでも発音が違う

英語を知っていると、頭がこんがらがってしまうのも無理はない

一面に文章が綴られている教科書を、類は流暢な発音で読んでいく
それは教授よりも綺麗で聞き取りやすい発音だ
先程まで日本語を話していたのに、同じ口から今度はフランス語が発せられ、つくしは思わず類の口元に見入ってしまう

その視線に気づいた類は、チラッとつくしの方を向く
途端、真っ赤になるつくし
見惚れていた事がバレたからだ

「あんた、聞いてる?」
「あっ//ごめん。 つい見惚れちゃって/// あっ/// だってね、日本語を話している口からフランス語が出て来るんだよ? しかも教授よりきれいな発音だし///」

焦るとペラペラと話すつくしのくせ
それを知っている類は、クスッと笑う

「褒めてもらって嬉しいけど、きちんと文章を追いながら聞かないと分からなくなるよ?」
「だね。 ごめん。 もう一度最初っからお願いしても良い?」

「ん。」

再び類は最初から読み始めた、、、



類は読みながら、つくしをチラリと見る
俺の言葉を耳に入れながら文章を追っているのだろう
その文字が見えやすいようにと、耳に髪をかけた
その仕草に大人の女性を感じる

いつの間にかうっすらと化粧をはじめ、茶道の稽古のおかげか仕草が綺麗になったと思う
年齢的にも少女から大人の女性に変わっていく時期なんだろう
それに、こうして教養を身に着けることで自信にも繋がっているのかもしれない

昔の何も知らない高校生ではなく、スポンジが水を吸収するように貪欲に知識を詰め込んでいる
その姿勢が牧野を引き立たせているんだろう

最後まで読み終えると、つくしはにこりと笑う
無意識だろうけど、小首を傾け笑顔を見せる姿は、俺以外に見せて欲しくない仕草だ
もちろん本当は俺も見てはいけない物なのかもしれない

「ありがとう。 なんかここがフランスに思えてきた!」
「ぷっ! 何そのたとえ、、」

「だってね。 周りは木々が見えるし吹き抜ける風が心地いいし、、フランスってこんな感じかな?って思って」
「それ間違ってる。 確かにフランスも緑が多いところもあるけど、パリとかは東京と変わらない。 それに、フランス語で会話をすれば、牧野的にはどこでもフランスって感じになるんじゃない? 今度やってみる?」

「うっ、、。 まだハードルが高い、、。 もう少し待って! いつか私がペラペラとまではいかなくても、普通に会話できるようになったらやってみよう? 都内でフランス気分が味わえるかツアーね!」
「ぷっ! そのツアーって誰が参加する訳?」

つくしは人差し指を顎に当てると遠くを見つめる
必死に考えているようだ
その仕草すらも類の目には可愛く映る

「とりあえずあたしと類! 二人でもツアーって感じになるでしょ?」

二人っきり、、
そこには、誰も邪魔をする奴はいない

牧野はフランス語だから俺を誘うんだろうけど、英語だったら司、中国語だったらあきらを誘うんだろう
決して俺と体験ツアーをしたい訳じゃない
勘違いをしてはいけないんだけど、、良いように考えてしまう

「確かに、疑似フランスを楽しめるかもな。 じゃ、その時は是非参加させていただきます。」
「こちらこそよろしくお願いします。」

「そんな牧野に申し訳ないんだけど、俺夏休みの前半はフランスに行くんだ。」
「そっか。 仕事?」

「ん。 少しずつ始めないとな。 こればっかりは仕方ない。」
「だよね。 じゃあ、リアルフランスを体験して報告をよろしく!」

「ぷっ! リアルフランスって、、あんた、、」

類はお腹を抱えて笑い始める

「もっ/// もう/// 笑わないでよ/// あたしからしたら、フランスって未知の国なんだからね。 いつか行くかもしれないし、その時の為に色々教えてくれると助かるでしょ?」
「だな。 せっかくフランス語を学んでいるんだから、ここでフランス疑似体験も良いけど、本場フランスで学んだ語学を発揮した方が断然良い。」

「だよねぇ。」
「行けるよ。 あいつは世界を飛び回っているんだから。」

司はNYが主流だが、世界を飛び回っている
一緒について回ればフランスも簡単にいくことは出来るだろう

だが本場フランスだけでも俺と一緒に回れないかな?
まあその可能性はない
俺はあくまで疑似体験だけの存在だから

「それと、あんたバイトするんだろ?」
「あっ、それね。 テレビ局主催の夏限定のイベントの売店スタッフ! 短期で時給が良いんだよねぇ。」

「バイトをするのは良いんだけど、かなり暑いらしいから気を付ける事! もし屋外なら尚更だよ?」
「分かってる。 水分補給もしっかりとするね。」

「ん。 じゃ、疑似フランス体験するためにも、次は牧野が読んで! ちなみに発音が間違ったら最初っからやり直しって事で!!」
「えっ! それスパルタじゃない!! でも頑張る!! そうしたら絶対に疑似体験に付き合ってよね?」
「分かった。」

つくしは鼻息も荒く宣言すると、教科書に視線を落とし、たどたどしいながらも読み始めた
そのつくしの姿を、優しい瞳で見つめる類だった



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Comments 4

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2020/04/17 (Fri) 09:31
りおりお

りおりお

Re: ビオ~様

ですよねぇ
他の人から見れば恋人同士なんです
でも違うんですよね

疑似ツアーもフランスならやりたいんでしょうね
類君と一緒に!
中国語だったらあきら君と思う類君ですけど、初めから中国語を選択するつもりはなかったんじゃないかなぁ?
知らず知らずのうちに、類君に頼り切っていると思います
いつ自分の気持ちに気づくかなぁ
問題はそこですよね

2020/04/17 (Fri) 15:08

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2020/04/18 (Sat) 08:20
りおりお

りおりお

Re: ゆきり~様

今まで当たり前に会った風景
でも、進むべき道が変わった今では、いろいろ考えてしまいますよね

疑似フランスツアーも、類君だからやってみたいと思ったんでしょ?つくしちゃん
あきら君や総ちゃんとやりたいと思わないんでしょ?
司君とは?
いずれNYへ行く事になったら疑似じゃなくなるから考えられない?

自分の気持ちをよく考えようよぉ
と思ってしまいます

2020/04/18 (Sat) 12:13
りおりお
Admin: りおりお
こちらは二次小説『類つく』のお部屋となっております
そういった類の物が嫌いな方は、回れ右をしてご退場ください
ヤフーブログ『類❤だ~い好き』から引っ越して参りました
引き続き類君とつくしちゃんの幸せな姿をお届けできればと思っております
尚、ブロ友は現在受け付けておりません
勝負<完>