22 別れの前
美作邸での楽しい時間もお開きとなった
類「牧野。 送っていくよ。」
つ「ありがとう。」
総「じゃあまたな。」
桜「花沢さん、お仕事頑張ってくださいね。」
あ「またな類! 牧野!!」
三人に見送られ、類とつくしは花沢の車に乗った
つくしはすぐにカバンの中から、小さな小箱を取り出す
「これ誕生日プレゼントなんだけど、、」
「ありがと。 開けても良い?」
「うん。」
開けると中からボールペンが出てきた
それはブランド品でかなり高価な物だと分かる
「良いの? こんな高級品を貰っても。」
「うん。 ずっと類にお世話になってたから。 社会人になる類に何が良いか考えた時にね、これなら仕事にもつかえるしスーツに入れてもそんなに恥ずかしくないかな?と思って。」
つくしはかなり悩んだ
出来れば身に着けるものが良い
猫のマスコットのように、類の傍に居られるような物
ネクタイはブランドスーツと同じブランドのネクタイでないとおかしいかもしれない
ネクタイピンは、会社指定の物を着用しないといけないかもしれない
財布は使い勝手から好みがまちまち
名刺入れは秘書が持ち歩くかも知れない
類のスーツ姿を想像しながら悩んだ結果、万年筆とボールペンの二つに絞り込んだ
最近はエコの観点からも紙をあまり使わない
パソコンの普及もあるし仕事はほとんどパソコンで行うだろう
でも、署名するときに筆記具は必須
万年筆だとインク漏れが考えられる
その点、ボールペンならまずインク漏れはない
もし気に入らなければ、自宅で使うことも出来る
それに、これなら類のスーツの胸ポケットに入れてもらえるかもしれない
「ありがとう。 大切に使うよ。」
「うん。 大変だろうけど仕事頑張ってね。」
「ん。 億劫だったけど、これにパワーを貰って何とか頑張れそう。」
喜んでもらえ、つくしはホッとする
「良かった、、。」
そのまま、類の肩に体を預ける
ホッとして力が抜けたこともある
でも、こうして触れられるのはこれが最後と言う気持ちが、つくしを大胆にさせる
もちろん酔いも手伝っている
その行動に、類はエッと思うが、酔っ払っていることもあるし眠くなっても不思議ではないと思う
それくらい、つくしがお酒に弱い事を知っている
現に、普通ならこうした行動をするような奴じゃない
プレゼントを渡せたことで、気兼ねなく寝ることが出来ると思ったのだろう
それに、今も無言だ
きっと既に、夢への階段を上っているのだろう
類は、そっとつくしの手を握る
そうしても、つくしは驚くことも体を固くする事も無い
これで牧野とこうして二人で過ごすのも最後
次に会う時は、きっと結婚式だろう
お世話になったというけど、俺の方が世話になった
なんてったって、俺にやる気を起こしてくれた人だから
それにこうしてこれからも頑張れる品を貰った
これを胸ポケットに入れ、いつも牧野が傍に居ると思って仕事頑張るよ
もちろん猫のマスコットも入れとく
二倍のパワーで頑張るから
だから、、あんたも頑張って
それと、、、
ごめん、、、
離れる前に、、
これが最後だから、、
類は、ゆっくり体を屈めると、つくしにかすめるようなキスを落とす
眠ってくれていて良かった
起きていたら、こうしてキスすらできなかったから
幼いころからジュニアとしての運命は教えられてきたし、仕事は厳しく辛い物だと知っていたけど、、、
あんたと離れる事の方がこんなに寂しく辛い物だって思わなかった
既に勝負はついていると分かっていても、、
やっぱり辛い、、
駄目だな、、
俺、、
きっとこのまま牧野の傍に居たら、あんたを壊してしまいそうだ
気持ちが溢れ出てしまうから、、
俺たちは親友だろ?
親友なら、この先もずっと親友として繋がっていられるから、、
幸せにな、、
牧野、、
つくしは、心が震えていた
寝たふりをしていた
そうでもしないと、泣いて困らせてしまいそうだったから
もう道明寺と別れてる!
と叫びそうになったから
そう告げた時の類の困った顔を見たくない
なぜ今頃?と言う問いかけを聞きたくない
だから寝たふりをした
類の香りが鼻孔を擽り、涙が溢れそうになった
すると、類が手を繋いでくれたのが分かった
最近は全然繋いでくれなかったけど、あのころと変わらないヒンヤリとした手だった
あの時、この手を取っていれば未来は変わっていただろう
でも、類の気持ちを受け取らなかったのはあたしだ
今更だ
だから最後まで親友として類を送り出したい
お願いだから、涙がこぼれ落ちませんように、、
すると、唇に温かな物がふれた
それはほんの一瞬
だけどそれが何か判った
以前、NYで受けたそれと一緒だから
類、、
類、、
るい、、、
もしかして今も?
でもその手を取ってはいけない
類もジュニア
仕事に奔走され、あたしの存在をいつかは忘れるはずだから
だからこのままでいよう
この先もずっと親友だって言ってたから
だよね?
二日後、、
類はイタリアへ旅立った
そこにつくしの姿はない
類は敢えてつくしに搭乗便を教えなかった
その同時刻、つくしは企業説明会に行っていた
その会社は、、花沢物産
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