6 槙乃
「それより槙乃の調子は?」
まだ他に家族がいるのか?
「今日は落ち着いてる。」
「良かった。 薪も全部売れたし薬も買えたから。」
「そう。 良かったわ。」
薬という単語に、槙乃という人物は病気なのだろうと察する
「狭い家だけどどうぞ。」
「ん。 お邪魔します。」
俺は進ノ介の後に続いて入る
三畳ほどの土間の横に農民には似つかわしくない簡素な鎧と槍が壁に掛けられている
そして8畳ほどの板間とその中央には囲炉裏がある
その奥に誰かが寝ているが、この人が槙乃という人物だろうか?
黒い髪を末端で軽く結っている
後ろを向き横になっているが、襟元が薄ピンク色をしている事から槙乃という人物は女性だと分かる
「どうぞ。 上がって。」
「うん。」
進ノ介は俺を促しながらサッと上がると、槙乃の元へ向かった
「調子はどう?」
「うん。 今日はだいぶマシ。」
俺はぐるりと室内を見る
病人がいるのに寝かされているのは
もちろん掛布団の一つもない
時代劇ではお殿様など上流階級の話がほとんど
庶民派ドラマの大岡越前や水戸黄門などは江戸時代でにぎわいのある長屋での大騒動物語
それらには必ず布団で寝かされていたが、永禄はそれより前の時代
戦国時代か?
奈良時代とか平安時代とか時代名は覚えていても元号までは覚えていなかったからなぁ
でも間違いなく江戸時代よりも前の時代だ
すると振り返った槙乃と目が合った
途端ビクッと体を震わせ進ノ介に抱き着く
「ねっ、、姉ちゃん、、」
姉ちゃん?
槙乃が震えながら呟く言葉に、やはり進ノ介は女性だと分かる
その震える槙乃を落ち着かせるように進ノ介が背中を摩りながら告げている
「大丈夫。 あの人は花沢類というお侍さん。
山賊に襲われ金品を奪われたから刀も持っていない。 だから大丈夫。」
「ほんとに?」
「本当。 それに暫くここで暮らすから。」
「えっ? ほんとにここで?」
「うん。 男手があった方が何かと便利でしょ?
それより薬を飲んで早く体を治しなさいね。」
「うん。」
進ノ介は水がめからお椀に水を入れると槙乃の元へ
そして薬を飲ませるとホッとした表情を見せた
次に竈へ向かった
火おこしをやっているようだ
その竈に母親が鍋を置いた
カチカチと火打石を使いテキパキと火を起こす進ノ介
居候の身となる俺としては何か手伝えないかと模索するが、逆に足手まといになるだろうと判断し、ジッと様子を見ていた
何もかも初めて見る作業
こう言っては失礼だろうけど、感動を覚える
その間も隣の槙乃から咳き込む音が聞こえる
風邪だろうか?
暫くすると進ノ介が竈の中から火のついた枝を囲炉裏に移し、その上に鍋を置いた
「食事の用意が出来たよ。 花沢類も遠慮なく食べろよ。」
「お侍さんの口に合うかどうか分かりませんけどねぇ。」
進ノ介の好意的な言葉に対し、母親は少し棘のある言い方だ
差し出された椀の中には芋らしき物が数個入ったすまし汁の様な物
それ以外の料理はない
「あのっ、、」
「お酒はないよ! そんな贅沢品が欲しけりゃ、どこか他へ行ってくれ。」
別に酒を要求するつもりではない
ただいつもこんな食事なのか、今夜がたまたまなのか知りたかっただけだ
だが気分を害されたようでこれ以上は聞けない
「いえ。 じゃ遠慮なく頂きます。」
木の椀も端が欠け細かい傷がいくつも付いている
それにこの時代、洗剤もスポンジも無いから、この椀も衛生的には疑問だ
それにこの料理も大丈夫だろうか?
とりあえず熱を通しているから腹痛は起きないか?
普通なら絶対に口につけない汁を一口飲む
それほど喉が渇いていた
味は薄い塩味
小芋は柔らかくまあまあ食べられる
それにしても、、
俺はチラッと三人を見る
俺が三人の食事を少しずつ削っているのだろう
食事もままならない生活の中で、俺を招き入れた進ノ介には感謝しかない
その時、進ノ介と目が合った
「凄く美味しい。」
「良かった。 まだあるから食べるといい。 ほらっ、椀を貸しな!」
言葉に甘えて椀を差し出す
今までの俺なら一口食べてすぐに箸をおく料理
お腹が空いていたことは否めないが、この現状でありながら俺の分まで分けてくれる気持ちが嬉しく食が進む
もちろん母親の疑心の眼差し、槙乃のおびえた眼差しが視界に入るが、進ノ介の笑顔に救われる
早く二人の信頼が得られるよう頑張らなくては、、、
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戦国時代の農民の暮らしを調べたんですけど、布団はなかったという記述を見つけました
筵というゴザに寝ていたとか、、
でも時代劇で織田信長とかの話では、皆布団で寝ていましたよねぇ
あれはお侍さん限定なのかもしれませんね
詳しくは分かりません(笑)
何度も言いますが、歴史は苦手です(笑)