8 過去何があった?
朝食は黄色い粒の雑炊?
この粒は何?
米は無いんだろうか?
庶民は年貢として米を献上すると歴史書で記されていた
という事はこれしか食べるものがないという事
それにお腹も空いている
この後も体力を使うし何より三人の手前、食べないとか残すという選択肢はない
俺は初めての味と食感を感じながら完食した
そうしながらチラリと槙乃を見る
時々乾いた咳をし、肌は青白く、進ノ介とよく似ている
こういう食事では良くなるはずはない
何か俺に出来ることはないだろうか?
少なくとも槙乃の代りにやれることは何でもやろう
食後、俺は背負いかごを背負って進ノ介と山へ入った
「これぐらいの薪を拾って欲しい。」
「ん。」
俺は言われた通り落ちている枝を拾う
そうしながら昨夜聞けなかったことを問う
「あのさ。 俺を見た槙乃がおびえていたけど、何かあった?」
進ノ介は薪を拾う手が止まる
「花沢類は俺が女だと見抜いたんだから、槙乃が男だと気づいているよな?」
やっぱり、、
でも確証はなかった
よく似ている姉妹ともとれる
未来から来たから性別が分かると嘘を告げた手前、ここは話を合わせた方が無難だ
「もちろん気づいてる。」
「だよな。 実は弟の名前が進ノ介。 俺の名前が槙乃。」
つまり入れ替わっている訳か
だが何故そんなことを?
「女だけだと危ないだろ?」
「強盗の心配とか?」
山賊がいるくらいだし、弟が病気になっていると知れたら襲われやすいか?
「それもある。 それに男が病人とか老人だと分かると、反撃されないから簡単に女性は犯される。」
!!!
これは想定外だ
そういえば昔は女性の地位が低かった
女性は単に子供を産む道具とか男の玩具として扱われていたとの記述もある
もちろんこの時代に避妊具などあるはずもなく、妊娠する可能性も高かった
望まぬ妊娠の場合最悪だ
中絶といっても今のような手術があるはずもなく、水銀を水で薄めた物を飲むとか、崖から飛び降りるとか、女性の体にかなりの負担がかかる物ばかり
想像するだけで悲惨だ
「弟が来客を怖がるようになったのは約一年前。 あれは蒸し暑い夜だった。
ドンドンと戸が叩かれ『助けてくれ』という声が聞こえたんだ。
こんな時間に誰?と思いつつも我が家は村の外れ。
一番山に近い場所だったから旅人が山賊に遭遇し命からがら逃げてきたと誰もが思った。
人の好い父親はサッと入口へ向かうと戸を開けたんだ。
すると突然切り付けられた。」
「えっ?」
俺は衝撃を受ける
そして父親がいないのはもしかしてその時に?と嫌な予感がした
「父親を切りつけた男はそのまま中に入ってきた。
その時の俺は恐怖で声も出ず、ただ弟を抱きしめガタガタ震えてた。
そいつは母親の元へ近づくと刀を首元へやり『抵抗すると切るぞ』と告げ、着物の裾を捲った。」
類は思わず息をのむ
それはつまり、、
子供の前で母親を犯したと言うことだ
「目の前で繰り広げられる行為。 一方で血だらけで仰向けになっている父親。
どうすることも出来ず震える俺。
すると母親の体に夢中になった男が刀を置いたんだ。
それを見た弟が、飛び出して、、男の刀を手に取ると胸を一突きした。
一瞬の出来事だった。 男は口から大量の血を吐きだすとそのまま後ろに崩れ落ち動かなくなった。
俺は唖然とする弟の手から刀を外し、顔中に着いた血を拭くので精いっぱいだった。
弟は無意識に体が動いたんだと思う。
父を殺した相手とは言え、初めて人を殺す感覚は本人しかわからない。
それから弟は人を怖がるようになり家から出なくなった。
だから俺が弟の進ノ介の代りをすることにした。
俺は何もできなかったから。」
俺は胸が締め付けられ声にならない
押し入った男は浮浪者か落ち武者の類か山賊か?
お腹が空いていたのか何かを盗もうとしたのか、それとも女の体が目的だったのか分からないが、自分の身勝手極まりない欲望の為だけに人を殺め一家を崩壊させた
でもこれがこの時代普通に行われていたんだろう
それでも、、進ノ介(槙乃)の心を思うとやるせない
唯一の男である弟は病気になり、母親と槙乃の女性がいる家と認識されれば、何時惨劇が繰り返されるか判らない
だから槙乃が進ノ介になりすまし家族を守っている
こうして慣れない仕事をしながら自分を犠牲にして、、
槙乃が悪いわけではないのに、、
自分を責めながら生きる日々はどんなに辛いだろうか、、
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