10 お悩み相談
晃司郎という人物が手を振りながら俺たちの元へ近づいてくる
遠目から見た時は似ているように思えたが、近づいてくると少々違和感を覚える
背丈は俺と同等なのだが、髪はストレートのようだ
そして目元は今の司と瓜二つ
つまり眼光鋭い感じだが、司とは違うと分かる
「おい! こいつは誰だ? 見た事ねぇ奴だな!」
言葉遣いは司そっくり!!
それに偉そうなところも!!
まあこの村の地主の息子だからそうなるのか?
「あっ、、この人は旅の人。
どうやら山賊に金目の物を全て盗られたみたいで、昨夜俺の所に泊めたんだ。」
「おい。 そんなことして大丈夫か?」
父親の事があったからだろう
確かにあんな悲惨な事がありながらも、槙乃は俺を招き入れてくれた
かなり心の葛藤があったんじゃないだろうか?
「大丈夫! だって小刀の一つも持ってないんだぜ?」
「そうかもしれねぇが俺は槙乃が心配なんだよ! あいつまだ病気なんだろ?
それこそこいつに手籠めにされんじゃねぇか?」
手籠め?
もしかして俺が槙乃を襲うとでも?
ありえないんだけど?
だって家に居るのは進ノ介だし、俺は闇雲にそんなことはしない!!
「そんな事しない!
今は一文無しだから泊めてもらってるし、お礼がしたいから手伝いもするけど、そのうち出ていくから!」
ホントは今すぐにでも帰りたいよ
暑いし重いし、履きなれない草鞋(わらじ)は足が痛いし
でも帰る方法が判らないんだよ
「その言葉! 忘れんなよ! 槙乃は俺のモノだからな!」
ん? それって、、恋人って事?
いや、、でも槙乃はここにいるし、家に居るのは進ノ介だし、、
もしかして気づいていない?
まあ二人はよく似てるけどさ
俺はチラリと隣を見る
槙乃は深いため息を吐くとキッパリと告げる
「晃司郎! その話は姉ちゃんが元気になってから言ってやって!
それと俺のいない間に襲うようなことはするなよ!」
「ばっ/// 当たり前だろ/// それよりまだ治らねぇのか?」
「うん。 でも最近は顔色も良くなったし咳も前ほどじゃない。」
「そっか、良かったな。 じゃ元気になったらまた連れて来いよ!」
「うん。 分かった。 じゃ俺らは行くから! 晃司郎もちゃんと仕事しろよ!」
「おう! またな!」
そう告げると俺達に背を向け戻って行った
再び槙乃と共に歩きながらも、晃司郎の存在が槙乃の支えなのでは?と思う
明らかに晃司郎は槙乃の事が好きみたいだし、あれほどの大きい家なら結婚後も安泰だろう
それこそ早朝から水くみしたり薪を拾ったり、こうして村へ売りに行く必要もない
綺麗な着物を着て来客の相手をすれば良いはず
「良かったな。 進ノ介が元気になれば晃司郎の元へ嫁げば今のように苦労しなくて済むな!」
「ほんとにそう思う?」
小さな声で槙乃は疑問を口にする
なんだろう?
不安な事でもあるんだろうか?
まあ家柄が心配か?
村人と地主の息子になるからな
「もちろん! だってさ、晃司郎の家は地主だろ?
田植えや稲借りはするかもしれないけど来客もあるみたいだから普段から綺麗な着物が着れる。
それにさ、、多分食べる事には困らないと思うけど違う?」
「確かに年貢の調整など藩の人との交渉があるから、それなりの着物を着ているし、田植えや稲借りはしない。
号令をかけ命令するだけだから。
でもさ、俺は単なる小作人。 晃司郎の親はお侍の娘を嫁に貰いたいと思ってる。
そうすれば多少融通が利くかも知れないし、あの親は晃司郎を侍にしたいと思っているから。」
豊臣秀吉も農民だったが織田信長に気に入られ天下を取る武将になった
つまり自分の身の振り方で未来は変えられる
「進ノ介は何が不安? 身分の違い? それとも晃司郎の気持ち?」
すると槙乃がきつい口調で反論した
「俺に選択権はない! そうだろ!!」
ここでアッと気が付いた
この時代は男尊女卑
親同士が決めた相手と結婚する
それがどんなに年の離れた相手だろうとも、本人の気持ちは無視だ
つまり槙乃は結婚そのものに夢や希望はなく、逆に喪失感や不安を抱いている
その事に気づかず、恋のお悩み相談のごとく偉そうなことを告げた俺って最低だ
まともな恋愛すら未経験の癖に、先輩面してアドバイスしようとしていたんだから、、
最低だ、、、
「ごめん。」
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